古書で寄り添う過去は、現在の未来だ
その時には、多くの人に知られていたのに、時が移ると、ほとんどの人が知らなくなってしまう。
古書に関するたくさんの本を出している岡崎武志さんの新著「ご家庭にあった本」は古書を通して浮かび上がる、時代や人の姿を温かく描き出した本だ。
ご家庭にあった本: 古本で見る昭和の生活
興味を覚えたのは、作家の宮内寒彌が書いた「七里ヶ浜」と、私小説作家神林暁の友人として描かれるドイツ文学翻訳者の浜野修「酒・煙草・革命・接吻・賭博」の本を紹介した章。
いずれも本の内容を紹介しつつ、岡崎さんがこうした忘れられた作家や文化人に寄せる温かいまなざしがいい。
以下はあくまでも推測だが、岡崎さんは、彼らのような忘れられた著者たちに、自身を含めた現代に生きる作家や、ライターたちの将来をダブらせているのではないだろうか。
本を出して著名になっても、本人が鬼籍に入り、知人友人がいなくなり、読者も彼岸に渡ってしまうと、その著者を覚えている人はいなくなる。
文学史や歴史に残る文豪たちは違う?
いやいや、そうではないだろう。たとえば文学史に残る坪内逍遥、幸田露伴、樋口一葉。この人たちの著書を、いま真剣に読む人はどれだけいるだろう。
近い過去に限ってもそうだ。戦後を代表する流行作家の石坂洋次郎、獅子文六、丹羽文雄らの本、もっと近くてもいい。景山民夫や、ちょっと毛色は違うけどナンシー関など、優れた書き手たちが、どんどん忘れられていく。
岡崎さんの忘れられた作家に注がれる愛情あるまなざしには、時代の波に洗われて、いつしか忘却の彼方に去っていた多くの人たちへの、温かい気持ちが込められている。








![H (エイチ) 2012年 04月号 [雑誌]](http://blog.fc2.com/image/noimage.gif)

